東京ドーム約44個分の広大な敷地に、豊かな自然、福祉施設から温泉、スポーツ施設まで、さまざまな施設を有する神戸市「しあわせの村」。ここに2021年に誕生した「こうべ動物共生センター」は、市民が気軽に立ち寄れ、楽しめる施設です。訪れた人を"猫のセンター長"が出迎えてくれます。
*記事内容はすべて2025年2月1日現在のものです。
速やかに整備された日本初の猫条例
神戸市には「人と動物、お互いの関係を大切にし、一緒に暮らしていこう」との思いが込められた「こうべ動物共生センター」(以下、共生センター)をはじめ、注目すべき「共生」があります。日本初の猫に特化した条例「神戸市人と猫との共生に関する条例」(以下、猫条例)です。
猫条例は、猫によるトラブルや殺処分を減らして「人と猫が共に生きるまち神戸」を目指すもの。飼い猫も地域猫も、すべての猫が適正に管理されるよう関わる人の責務と役割を明確化し、取り組むべきことを示しています。
また、この猫条例に基づいて「神戸市人と猫との共生推進協議会」が設立されました。協議会のメンバーは、神戸市獣医師会をはじめ、動物愛護団体、神戸に本社を置く企業、自治会、新聞社など多方面から集まり、それぞれの立場から猫の課題と向き合い、一丸となって施策を推進しています。
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なかでも協議会による「野良猫の繁殖制限事業」は、神戸市ならではの活動です。住民から寄せられた苦情や情報をもとに猫が多く住む地域を選定し、まずは「繁殖制限対策区域」を設定。その地域では動物愛護団体やボランティアを中心に、住民にも協力してもらって徹底的にTNR(捕まえ、不妊手術して、地域に戻す)を行います。
不妊手術代は公費で全額を負担。事業開始から7年間で、約330の繁殖制限対策区域が設けられ、のべ約1万4000匹のTNRを行ったそうです。
猫条例が制定されたきっかけは'15年、猫の殺処分率が約88%で全国の政令指定市の中でワースト1位を記録したこと。そのとき殺処分された猫の約9割は生後3カ月未満の子猫で、地域で猫が繁殖している状態でした。ほどなく市議会の本会議において猫条例が全会一致で可決され、'17年に施行されることに。
その後、ふるさと納税で寄付を募り始め、外猫の不妊手術代や野外で生まれた子猫を救うミルクボランティア活動などに役立てています。かくして、管理センターに収容された猫は'13 年度の1264匹に対し、'23年度は182匹までに減少したそうです。
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みんなの力で育てる「共生するまち」
神戸市環境衛生課に、今一番の課題を聞けば、猫の多頭飼育崩壊対策だそうです。毎年必ず数件が表面化し、管理センターに引き取りを求められることも。ただ、個人宅での多頭飼育は情報をキャッチするのが難しく、なかなか打つ手もないとか。
また、最も多く寄せられる苦情は、猫に食べ物をばらまく、与えたまま放置する、といった“エサやりのマナー”に関するもの。人の意識や行動を変えることは簡単ではありませんが、ひとつずつ課題を解決しながら、動物愛護や適正飼育について広く啓発し、「人と猫が共に生きるまち」に向かって進んでいくといいます。
そして、市民への教育・啓発活動の拠点といえば、共生センターです。たとえば「飼う前に知っておきたいこと」などの基礎知識から、「獣医師の世界を体験しよう!」といった子供たちが楽しく学べるプログラムまで、多種多様なイベントやセミナーを行うことで教育・啓発につなげています。
また、「犬猫とのふれあい体験」は子供だけではなく、シニアも対象という珍しいイベント。動物と触れ合うことで、心身の健康維持につなげる“アニマルセラピー”の観点から開催するもので、ペットを飼いたくても飼えないシニアの日常をひとまわり豊かにするプログラムです。
猫条例を基軸にした神戸市の取り組みは、行政だけではなく、獣医師会や企業、ボランティアや市民まで多くの人に参加してもらいながら、みんなの力で大きく育てている途中。今後どう育っていくのか、期待がふくらみます。
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