
マンクス
- 英語名
- Manx
- 原産国
- イギリス
- 公認団体
- CFA・TICA・ FIFe ・ GCCF
- 毛種
- 短毛種・長毛種
しっぽが無くて、まん丸体型の猫、マンクス。日本ではあまり見かけない種類かもしれませんが、独特の丸い容姿が愛らしく、多くのファンを獲得しています。今回は、そんなマンクスの歴史や特徴、性格などをご紹介します。
しっぽが無くて、まん丸体型の猫、マンクス。日本ではあまり見かけない種類かもしれませんが、独特の丸い容姿が愛らしく、多くのファンを獲得しています。今回は、そんなマンクスの歴史や特徴、性格などをご紹介します。
マンクスの発祥の地は、「マン島」という島だといわれています。マン島とは、アイリッシュ海にある孤島で、古くからのお城や要塞、繊細な彫刻が施されたケルト十字など、歴史を感じる遺物が現在でも保存されています。かつて孤島に住んでいた猫たちは、他の猫との交流が少ないため、島の中で近親交配が行われていました。その結果、突然変異としてしっぽのない猫が生まれ、長い年月をかけてマンクスの遺伝子が確立されたと考えられています。
しっぽがないのが一番の特徴ともいえるマンクスですが、実は短いしっぽがある種類もいます。わずかに短いしっぽがあるマンクスを「スタンピー」、中尾のマンクスを「ロンギー」、しっぽがまったくないマンクスを「ランピー」といいます。いわゆるキャットショーなどに出ることができるのは、ランピーだけとなっていますが、繁殖には両方が必要です。
※このグラフは、『新しい猫の教科書』(高野八重子著、緑書房刊)の記述をもとに編集室で作成。これらはあくまで目安ですので、飼育環境や状況、個体により異なることがあります。
丸っこい体が可愛らしいマンクス。性格も、体型に沿うような、とても穏やかなところが特徴です。また、マンクスは忍耐強い部分も兼ね備えています。飼い主さんを信頼してくれるなど、まるで犬のような部分も持ち合わせた性格のマンクス。他の動物とも良好な関係を築きやすいでしょう。
マンクスの体重は3kg~5kg。ずんぐりとした丸い体型が特徴で、しっぽがありません。丸い頭部に、マズルとウィスカーパッド(猫の鼻の横にある、ひげの生えた膨らんだ部分のこと)も丸く、ウィスカーブレイク(頬とウィスカーパッドの間にあるくぼみのこと)が明確にあります。頬が特に目立ち、ジャウル(えらのような部分)が張っているので、顔の丸さが強調されています。大きな顔にある目もまた大きく丸く、くりくりとしています。耳の大きさは中くらいで基部は広く先細りで、先端は丸くなっており、耳と耳の間は離れています。
中くらいのサイズのマンクスは、短胴で固く筋肉質で、コンパクトな印象を与えます。背は丸くカーブしており、胸はぶ厚く幅広くて、脇腹にも豊かな厚みがあります。そして、尻尾がないことと同様に特徴的なのが、非常に幅が広く丸いお尻です。マンクスは、前足が短く後足の方が長いため、自然とお尻を高く上げるような姿勢になり、走るときは、ウサギのようにぴょんぴょん飛び跳ねることもあります。ポウ(足先)ももちろん丸みを帯びています。
体重:3~5.5kg
マンクスの短毛種は厚みがあり、やや硬めのダブルコート。長毛種は中くらいの長さのダブルコートで、首回りと腹部の毛が特に長めになっています。手触りは柔らかく、シルクのようです。瞳の色はカッパーを基本とし、ブルー、グリーン、オッドアイなど、毛色に準じています。
毛色は、レッド(赤みのある薄い茶色)、タビー(縞模様)、トーティシェル(黒と赤系統の色がモザイク状になった柄)、キャリコ(3色の毛。一般的に三毛といわれる種類で、基本はホワイト・ブラック・レッドの3色)やホワイトなど、多種多様です。
しっぽのない(ランピーと呼ばれます)マンクスの遺伝子は致死性を持つ潜性遺伝であり、両親からそれぞれ受け継いで2つの遺伝子が揃うことで、致死をもたらします。ランピー同士の交配や、3代続けてランピーを交配するのは禁止されています。
この遺伝子は1つしかなくても疾患を発現することがあります。脊椎破裂、椎間板異常などを引き起こし、最悪の場合は死に至ります。これらはマンクス症候群とよばれる独特の病気で、子猫にその可能性があるかどうかは、生後半年近く経たないとわかりません。
ランピーの場合、健康な個体でも便秘や尿路疾患になりやすい傾向があるといわれています。
マンクスは一般的に入手が難しく、輸入や専門ブリーダーからや、保護猫譲渡がおもな入手方法です。
穏やかで遊ぶことも大好きなので、一緒にいる時間を積極的に作ってあげられる人や、遊びに積極的に付き合ってあげられる人などは向いているでしょう。またスキンシップが好きな人にもおすすめです。
猫の健康のためにも、屋内飼育がおすすめです。猫は基本的に薄明薄暮性の動物なので、日中は寝て過ごすことが多いため、安心して寝られるスペースを用意してあげましょう。
また、猫は上下運動を好むので、猫タワーを設置したり、上っても大丈夫な場所を部屋に作ってあげたりするといいですね。
主食には、フードと水のみで栄養のバランスがとれるように作られている、総合栄養食を与えましょう。一般食は、栄養バランスよりも食いつきを重視しているため、主食には不向きです。フードのパッケージの裏に総合栄養食と記載されているものを選んで。
猫は、成長や年齢ごとに必要とされる各栄養素の量が異なります。「子猫用」「成猫用」「シニア猫用」「体重管理用」など、年齢と目的に応じたフードを与えましょう。
また、猫はもともと飲水量が少なくても生きていける体の構造ですが、そのぶん、結石症や腎臓病にかかりやすいので、なるべく水分を摂らせるように注意しましょう。
人なつっこい性格で、人とのコミュニケーションは大好き。お気に入りのおもちゃを使うなどして、1日に最低でも5~10分以上は集中して遊んであげましょう。
また、猫は高いところに上る習性があり、屋内という限られた空間でも、立体的な上下運動をさせるようにして。猫ができるだけ自由に活動できるよう、猫タワーを置く、タンスや棚をうまく配置して高いところに行けるようにするなどの工夫を。
短毛なので、ブラッシングはスムーズです。スキンシップのときなどに、軽くブラッシングをしてあげましょう。ダブルコートなので、換毛期には多量の毛が抜けるため、特に丁寧におこなってください。
マンクスは、数々の伝説でも知られています。たとえば、「急な雨に見舞われたノアの箱舟の船員が急いで扉を閉めようとしたところ、急いで飛び乗った猫が、船の扉に挟まれてしっぽを切られてしまった」、「1588年にスペイン船が嵐で難破したときに、しっぽのない猫たちが、脱出してマン島に泳ぎ着いた」といった、ユーモラスな伝説が語り継がれています。
イギリスで人気となったマンクスは、19世紀の終わり頃からアメリカに輸入されます。当時のマンクスは、今とは違って体も足も長く、すらりとした体型でしたが、アメリカのブリーダーたちによって、丸くずんぐりとした今の形に改良されました。
1920年代には、CFAによって公認されます。なお、以前は、ふわふわとした長毛が特徴の種類を「キムリック」と呼んでいましたが、現在では、マンクスの「ロングヘア部門」として統一されています。
もともと、日本の家猫は、1980年代半ばまでは短くて曲がったしっぽを持つ猫が多い傾向にありました。しかし、近年ではまっすぐで長いしっぽを持つ猫が、主流になってきています。これは、血統猫などとの交配が進んだ結果だと考えられます。欧米の家猫の多くは、長くてまっすぐなしっぽを持ち、東南アジアの家猫ではしっぽが曲がった猫が多くみられるため、血統猫との交配による猫が、まっすぐなしっぽであることが多いようです。
猫のしっぽが曲がる原因はいくつかありますが、その原因の1つは、「仙椎(せんつい)」の数だと考えられます。仙椎とは、腰椎と尾椎(びつい)をつなぐ椎骨(ついこつ)のことで、通常は3つの骨が連なっています。この仙椎の数が3つあると猫のしっぽは長くなり、自然に下がる形になります。仙椎が2個だと、しっぽが短かったり、曲がっていたりすることが多く、胴も短くなります。
なお、しっぽの短い猫は、臀部の筋肉が発達してしっぽとしての役割を補っているようです。しっぽのない猫、マンクスにも、しっぽの形跡(1個の仙椎)がわずかに存在します。
全体的に丸い容姿でしっぽがなかったりと、個性的な外見のマンクス。発祥の歴史を辿ってみると、面白い発見もあり、マンクスの存在に少しだけ近付けた気分になりますね。穏やかで飼い主さんを信頼してくれる性格なので、猫好きはもちろんのこと、犬好きさんにもおすすめしたい猫種です。
監修: 高野八重子先生(ヤマザキ動物専門学校)
参考:『猫の教科書』(緑書房)
写真選定協力:石原さくら
猫写真家として、「ねこのきもち」表紙他多数で活躍するほか、メディアの出演・講演も多数。著書・共著に「てらねこ 毎日が幸せになる お寺と猫の連れ添い方」(KADOKAWA)、「かわいいかわいい ねこのかぶりもの」(パルコ)など。愛玩動物飼養管理士1級。A級キャットグルーマー。デボンレックスとシンガプーラのブリーディングの経験もあり、猫の品種についての造詣も深い
※猫の性格や特徴には個体差がありますので、あくまで目安としてください。
※猫種の起源や歴史については諸説あります。